Antelope Audio
10MX

さて,ついに試すときがやってきました。Antelope Audioの最高峰クロック!ルビジウム10MHzも出力できるWord Clock Genenratorです。

10Mは「多分すごいんだろうなぁ。でもあの価格だと他にも色々買えるしなぁ」と考えていました。10MXになり10MHz Clockの他にもクリスタルWCも出力できるようになりだいぶお得感が出てきました。

実はシステムに2種類のClockを供給する必要があり(なくても作動はします),OCX-HDを2台導入しようかTRINITYにしようか悩んでいたのですが,OCX+10MXでその2種類のクロックが生成できることに気づき,試してみました(10MXで無くとも2種類のクロックがあれば問題ありません)。

Product Overview of 10MX

Clock generatorなのでさほどスペックらしいスペックと言うのもありません。Atomic Clock outputを10port,WC output(32 ... 768 kHz square wave)を4ポート,S/P DIF(Coax)を2ポート,ASE/EBU outputを2ポート持っています。全て同じクロックが供給されます。

またWC inもあります。電源はIECで,コントロール用のUSB Bポート(コントロールのみ)も搭載しています。

フロントパネルはシンプルなものでPowerとRateを選ぶノブのみです。

周波数の誤差の精度は±5x10-11%以下(±0.05PPB※1)とのことで,比率で言うと1mを測っているときに原子1個分のよりも誤差が小さいという精度です。もしくは逆に5x1011mというと,どのくらいの大きさ,距離だと思いますか?地球の直径※2?いやいやもっと。太陽の直径※3?いやまだまだ!

地球の公転軌道の半分くらい,太陽の中心から小惑星帯くらいの距離です。いわゆるでかすぎて(小さすぎて)イマイチピンとこない天文学的数字,というやつですね。時間の方がわかりやすいでしょうか,5x1011秒というと15844年位だそうです。1万5千年くらいで1秒ずれるかどうか,いう精度ですね(ご注意下さい。Clockの精度ではなくあくまで周波数の誤差の比率です)。ここまで来ると精度が一桁ずれて(1500年で1秒でも)もさほど違いって出ないんじゃないかと思いますが,Clockというのですから精度は高いほうが良いのでしょう。クロックの安定性は±0.02 PPM※4。1.6年くらいで1秒ずれるかどうか,という精度。僕の腕時計とは大違いです。

僕の周りには約束の時間に1秒遅れたからといって怒るような友人は居ませんが(怒らない友人も居ません),Clockがよれると結構ピッチのズレやジッターの増加など不具合が発生します。Clockはその精度も然ることながら,如何に正確な,理想的な矩形波を出力できるかによって接続先の機材に与える影響が,ひいては音に影響が出ます。例えば、BNCケーブルには75ΩCoaxialを使用するのが前提ですが,これを間違えたケーブルを使用すると矩形波が鈍り,ジッターの増加,音質の悪化につながります。

また10MXにはIsochrone TRINITYで培われたジッターを低減するテクノロジーを搭載し,クロック自体も第4世代と言われる最先端の64bit Clocking technologyが搭載されています。

ジッターの増加,というとイマイチよくわからない部分あろうかと思います。実際には多少のジッターがあっても機材はほぼ正常に動きますしとんでもないノイズが出るわけではありません。Jitterが増加した時の音の印象は、僕の経験だと,鈍るという表現がぴったりです。

ジッターが増えると音のエッジ感が失われ分離が悪くなっていきます。その昔adatのケーブルをS/P DIFの光ファイバーケーブルに変えたり,AES/EBUの110ΩケーブルをアナログXLRケーブルに変えたりして音の変化を聴いたことがありますが,その時の変化がそういった感じです。adatとS/P DIF opticalには伝送量に単純に4倍の差がありますが,そうなるとどこかで情報が欠落します。またAES/EBUも数MHzの信号が流れるそうなのでアナログXLRだと伝送に限界があります。

そうなると出力側の情報が正しく入力側に届かなくなり伝言ゲームが成立しなくなります。Clockにはオフセットが発生し,その結果音の滲み,鈍りにつながるというわけです。

この辺は正しいケーブルを使用すればなんとかなりますが,AD/DA Converter(以下DAC)などの内蔵Clock精度が低い場合にはもうどうしようもありません。外部からよりクリーンで正常なClockを供給していやることにより,より正確な音をキャプチャできるということになります。もちろん複数のデジタル機器をデジタル接続するにはあったほうが良い、場合によっては無くてはならない機材の一つです。

シリアルであれば,問題無い部分が多いですが,Clockの伝言ゲームになるとやはりジッターは増加するそうなので全てに同一のマスターから供給できたほうが良い結果となります。


※1:PPB=parts-per-billion,十億分率

※2:地球の直径は約12,756,000=約1.3 x107m

※3:太陽の直径は約1,392,038,000=約1.4 x109m

※4:PPM=parts-per-million,百万分率

Controll application Isochrone 10M-X Launcher

コントロールアプリについて触れておきましょう。Isochrone 10M-X Launcherという名称で、メーカー本国のページからDownloadできます。10MXがClock Masterなのでさほど大したコントロールはありません。電源のON/OFF,周波数、Clcokマスターの切り替えくらいです。

本体ではClock masterをOvenかWC inかは選べないようです。

今回はデモ機でしたので不必要でしたが、初回使用時のみ、Internetでアクティベーションが必要です。また、Internetに接続されている場合にはapplicationの最新版を常にDLします。

10MX本体のFirmware updateも10M-X Launcherから行えます。この辺りは他の製品と同じですね。

10MXは製品の性質上さほど必要ないと思いますが、Orion StudioなどFPGA Fxを搭載しているモデルではこまめにfirm upしたほうが良いと思います。

Sound Impression of 10MX

さて勘の良い方は気づいたかと思いますが,前述の「システムに2種類のClockを供給する必要」とは片方はDAW(DAC)側の48kHz,88.2kHz,96kHzです。もう片方はDSD Master Recorder(以下DSD Recorder)用の44.1kHzです。

夢を語ると10MX+OCX-HDを使用して96kHz=768kHz/8とかのほうがいい音すると思います(OCXのレビューをご参照下さい)が,まぁそうもいかないので今回は10MX+OCXで試してみました。

実は今回,お客さんに音質向上の件で色々ご相談いただき,Clockに行き着きました。その方はAntelope Audio Mastering Eclipse(旧商品名「Eclipse 384」)をお持ちでSpeakerはADAM S4X-V,Speaker Standに特注のKRYNA Stageシリーズ、その他アクセサリーも充実した環境をお持ちの方です。Lifeworkとしてアナログ盤の96kHzアーカイブ化に取り組んでいたようで,さらなる高音質,ということでご相談いただきました。お話伺ったときには「Eclipse 384も第4世代Clockingだし,そこに中途半端なClock流すと,悪い結果を招きかねない(過去に経験があります)。10MXのアトミックとかしかないんじゃないか...」と,幾つかのアイデアを提示し10MXを試すということになりました。

10MX[Atomic Out]->Eclipse 384[10M In]という接続と10MX[WC Out]->Eclipse 384[WC In]の2種類のClockが愉しめ(?)好きな方で使っていけるので良いのではないかと。また代理店の方にも相談したのですが,前述の2種類の接続で音が変わる可能性があるのはもちろんの事,Eclipse 384の先にDigital機器をデジタル接続し,WCをEclipse 384から供給した場合には両者の違い,安定性は大きく分かれてくる,とのこと。

冷静に考えれば,10MX[WC Out]->Eclipse 384[WC In]の場合,厳密には10MXのクリスタルは10MXのatomicを受けて振動しているので10MX[Atomic Out]->Eclipse 384[10M In]のほうがアトミッククロック影響を直接受けることになります。伝言ゲームが一人少ない状態ですね。

さて,そのお客さん(そうですね。「Nさん」としておきましょう)は色々試してくださいました。途中経過は省きますが,10MXマスターの状態とEclipse 384マスター状態で録音したものをそれぞれ10MXマスターの状態とEclipse 384マスター状態で状態で再生してみて頂いた,とのこと。Sampling Fsは96kHzとのことでした。結論は10MXをマスターにして録音したものを10MXをマスターにして再生したものが一番好印象とのことでした。実際にFile頂いて試聴したのですが,結構な差があります。10MXがClock MasterでないということはEclipse 384がClock masterということですのでそれはそれで充分な印象なのですが,10MXをマスターにして録音したものはよりくっきり、どっしりし、Introのシンバルの種類の違いをより明確に表現していたように感じます。ちなみにこのときの再生環境のClockはインターフェイスのInternal Clockです。

このときの再生環境のClockは10MX、Eclipse384ほど優れてはいませんのでそこまでの違いが描き出せるのか正直心配していましたが、Nさんから頂いたfileを再生してココまで(正直、差は小さいのかも知れませんが、この違いは絶妙に、そして間違いなくプラスになっています)。正直EQやコンプでは無理な部分があるともいます。Eclipseがマスターの時には「3種類のクラッシュシンバルかな」と思っていた3枚のシンバルが10MXがマスターになったときには1枚はスプラッシュだと分かりましたから。そういう部分から考えるとやはり良いクロックを供給することにより同じサンプリングレートでも高解像度な音像を得ることが出来るといえます。また、今回Nさんから頂いたデーターを試聴し、違いを聞き取ることが出来たことにより、「良いクロックを使用することは、リスナーの環境によらずプラスに働く」といえます。

こういったことを体験するとやはり自分で試してみたくなります。と言う訳で代理店から実機を借りて試して見ました。

録音に関する部分はNさんの実証である程度クリアになっているのでMixingで試してみました。

システムとしては48kHz/32bit float Multi Track Dataを20chにアサインしてDACから出力し、アナログサミング、その出力をDSD Recorderに入力しています。前述のとおりClockは10MXとOCXを用意しました。

パターンとしては

  1. DAC,DSD RecorderともにInternal Clock
  2. DACに10MX,DSD RecorderにOCX(Quator Clock※5)
  3. DACにOCX(Quator Clock)、DSD Recorderに10MX
  4. DACに10MX,DSD RecorderにOCX(10MXからAtomic Clock供給,Quator Clock)
  5. DACにOCX(10MXからAtomic Clock供給,Quator Clock)、DSD Recorderに10MX

を試してみました。もちろんですが、DAW含めClcok以外は固定のままです。

DACへ良質なClockを供給しDA Conversionの精度を高め,DSD RecorderにClockを供給してやることにより,MasterのResolutionを高めるのが目的,といって良いと思います。

Fileを176.4kHzで書き出してPT上に並べてSoloで切り替えつつ聴いてみました。基本的にINTのデーターとの比較の印象です。この時のクロックはInterfaceのInternal Clockです。10MXからクロックを供給してやればもっと違いは見えやすいのかもしれませんが、今回は試しませんでした。

DAC,DSD RecorderともにInternal Clock

通常の状態というか,一番お金がかかっていない状況です(笑)。

聞き慣れた感じというか,いつも通りです。

DACに10MX,DSD RecorderにOCX(Quator Clock)

左右の定位がくっきりし、センターのソースの高域が伸びてきます。この部分だけだとEQでなんとかなりそうですが、音像も少し広がりが出たように感じます。また、各パーツの音像にもエッジが加わった印象で好印象です。低音が痩せた、という印象はありません。Mixを尊重してマスタリングしてくれた、というイメージというと伝わりやすいかもしれません。

DACにOCX(Quator Clock)、DSD Recorderに10MX

基本的な印象はDAC=10MX/DSD=OCXの印象と同じですが、少しINTに近い印象を受けます。原因としては

  • 録音時のClock masterがOCXであること。
  • 多チャンネルの方が(=ステレオよりもマルチトラックDACの方が)Clockの影響が大きいのでは

が言えると思います。

DACに10MX,DSD RecorderにOCX(10MXからAtomic Clock供給,Quator Clock)

これが一番変わりました。変化の傾向はやはりDAC=10MX/DSD=OCXと同じ方向を向いていますが、より顕著です。奥行きもより見えてくるようになりVocalの後ろのGtのオブリガードのディレイの分離がが綺麗に見えてきました。奥行きが増すというよりは一番奥の距離は同じで間の解像度が高くなるという感じでしょうか。Bit Depthを16bitから24bitに切り替えた感じ、というとわかってもらえやすいかもしれません。
はじめてOCXを試した時の感動にも少し似ています。

DACにOCX(10MXからAtomic Clock供給,Quator Clock)、DSD Recorderに10MX

個人的にはこの組み合わせが一番好きでした。DAC=10MX/DSD=OCX(Atomic)だとちょっとくっきり感/Over processing感が強かった印象です。INTでミックスしたデーターを使用しMix down時に、Clockのみを切り替えているので、こればっかりは仕方ありません。むしろここまで変わったことに驚きと,最初からこの状態のclockでMixingしたらどうなっていたか,興味が尽きません。

Recording/Mixingを担当した人間として一番作りたかった音のイメージに近い、という感じです。もちろんINTでのMixingには自信を持っていますが、最後に絶妙な「塩ひとつまみ」が加わった感じです。


違いがこんな風にはっきりわかることが分かったのが驚きでもあり収穫でもありました。

ここまでの違いがあれば、Clcokの初期設定がAntelopeになっていれば、間違いなくEQの処理など変わってくるはずですので仕上がりも大きく違いそうです。

10MXとOCXの音質の違いですが、10MXが非常に正確な音の印象になるのに対してOCXは少し味付けがある印象でした。あくまで両者を比較すればの話です。DSD recorderに収録されているdataをClockを切り替えて聞いてみたのですが、10MXはすっきりとした感じに、ごちゃつきがなくなる感じですが、OCXはほんの少しEQをかけたような感じでした。

今回こんな風に試してみてよかったのは、まずINTのclockも決して悪いものではないということが分かった点、またOCXも10MXからのAtomic Clockを供給してやれば別の機種のような精度が得られると分かった点です。悪かったのはやっぱり10MXはよかったというのが分かってしまった点と、OCXも10MXからのAtomic Clockを供給してやれば別の機種のような精度が得られると分かった点です。やっぱり高い機材って高いだけの理由があるんですね...。

こうなるとOCXとOCX−HDの違いやPure2にAtomic clockを供給した時などの音質も興味がありますね。

同じものの組みわせ方次第で音質の微調整が出来るというのも大きな収穫です。導入した際にはMixing最終弾でClockをきりかえる、というのが儀式のようになるかもしれません。


※5:OCXはNormal clock(x1),Double Clock(x2),Quad Clock(x4),Super Clock(x256),Half Clock(x1/2),Quator Clock(x1/4)が出力できますが過去試した中でQuator Clockが印象がよかったのでQuator Clockで進めていきます。

20170308追記

上記のデーターを整理してて,「逆相で聴いたらどうなるかな?」と思って,データーの頭を厳密に揃えて聴いてみました。違いはやはりあるのですが,何の気なしに後半の背景を拡大して驚愕です。

波形画像アウトロ波形画像イントロ

Dataは上から

  1. DAC,DSD RecorderともにInternal Clock
  2. DACに10MX,DSD RecorderにOCX(Quator Clock)
  3. DACにOCX(Quator Clock)、DSD Recorderに10MX
  4. DACに10MX,DSD RecorderにOCX(10MXからAtomic Clock供給,Quator Clock)
  5. DACにOCX(10MXからAtomic Clock供給,Quator Clock)、DSD Recorderに10MX

です。

左がIntroの波形です。スタートがぴったり揃っているのがわかります。これはTABを使って合わせたのでかなり信用できます。

右が曲の終わりの方の背景です。3.5minくらいあとの状態です。

下の2つ(10MXからatomic Clockを供給したMix)は揃っていますが,上の3つはちょっとずれています。

どれが正解,とは言えない気もしますが,この状況だと10MXが正解とするのが自然な帰結だと感じます。

正確には測っていませんが,10MXとINTだと5-6mSecほどずれています。となると,3.5Minで850サンプル以上ズレがでている計算です。そう考えるとジッターの増加などが起こっていると考えられます。10MXをマスターにした時の静寂感はジッターの減少に起因するものでしょう。

Afterwords

ここまでの違いが出るのであればLiveのデジタルコンソールへの使用もありですね。Liveの場合、信号が長距離をやり取りするが故に容易にジッターなどが増えそうな気がします。

ClcokをAntelopeに切り替えれば驚異的なMixingができるわけではありませんが、仕上がりに少なからず影響を及ぼす部分であることは間違いありません。デジタルにおいて良質なクロックがいかに重要か再認識しました。AntelopeのClockは音を整理してくれる印象があります。トラックが多いMixing、より精度を高めたい場合などには非常に有効だと思います。

Antelope Audio,10MX 画像

date:
checker:Takumi Otani

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