Vanguard Audio Labs
V14
さて、今回見ていくのは真空管コンデンサーマイクです。以前レヴューしたV44Sを生産するVanguard Audio Labsの新製品です。
早速見ていきましょう。
Product Overview of V14
2025年の年始に、Vanguard Audio Labsの日本国内代理店であるdsp JapanのY瀬さんがいらしていただき色々デモいただきました。
その時にV44Sをご紹介いただいたり、Trinnov Audioの製品のDemoを行っていただいたり。
その時にまだ開発中だったV14という電圧可変真空管コンデンサーマイクの話題も持ち上がり、色々お話した記憶があります。
なる動画を観た後だったのですが真空管にかける電圧を変更することにより倍音成分をコントロールしている様子が解説されおり、新たな発想とその音質に非常に興味がありました。
ついでにですが、V14のテスト動画はこちら。
半年くらい経って、V14のデモ機が入荷したとのことでデモ機をお借りできました。Vanguardのマイクは基本的にPinot Noir finishですが、V14とV24は#4 grained finishです。無骨ですが、質実剛健な印象を受けます。
V14の一番の特徴はやはりVariable-Voltage Tube Control
だと思います。
これはチューブの動作電圧を34-105Vで調整し、通常(設計にも依りますが65-80V)の範囲を超えて駆動することで、さらにユニークな音色を実現しているとのこと。
実際Power supply PS-14には、TUBE GAIN
というある意味見慣れないノブがあり、底面にはTube Voltage setting quick Reference
なるchartが用意されています。
こんな感じです。
Gain[dB] | Plate Voltage[V] | THD[%] | Notes |
---|---|---|---|
+1.0 | 105 | 0.7 | Transformer Drive |
+0.8 | 95 | 0.4 | |
+0.4 | 86 | 0.5 | |
0 | 77 | 0.7 | Normal operating point high |
-0.4 | 68 | 0.9 | Normal operating point low |
-1.3 | 60 | 1.2 | |
-2.5 | 52 | 1.5 | |
-6 | 44 | 1.9 | |
-12 | 34 | 2.5 | Starve max |
プレート電圧とTHDの関係が面白いですね。THDが低いほうが良い、という観点に基づけば過ぎたるは猶及ばざるが如し
と言われているようです。
Tube Gainの+と-の違いですが、真空管に過剰に電力を供給すると、Cinemag 出力トランスに負荷がかかり、出力レベルも上昇するため、奇数次高調波歪みが増加し、真空管への電力供給が不足すると、偶数次高調波歪みが増加し、出力レベルが低下するだけでなく、ヘッドルームが減少して、マイクの過渡現象に反応する具合が変わるとのこと。
すなわち真空管らしさを出すのであれば負の値となるのgain設定が良いのでしょう。
同社の真空管コンデンサーマイクV13と比べてみても色々違いがあります。Sepcで比較してみましょう。
項目 | V14 | V13 |
---|---|---|
Transducer Type | Condenser | |
Capsule | BeesNeez CK12 | 1.34″ / 34mm(デュアルカプセル) |
真空管 | Vintege GE 6072A | 非公開 |
Diaphragm Size | 1.04″ / 26.4mm | |
Electronics Type | Vacuum Tube, Transformer-Balanced output | Valve/Tube, Transformer-Coupled Output |
Output Impedance | 200Ω | |
Polar pattern | Omni/Fig-8/Cardioid,9 steps | |
Max SPL | 約126dB @ 0.5% THD(通常モード) | 134dB(144dB with pad) |
Frequency Response | 20Hz ... 20,000Hz | |
Equivalent Noise Level | ≤13dBA(A-weighted) | ≤12dB(A-weighted) |
S/N Ratio | ≥81dB(1Pa基準・A-weighted) | ≥82dB(1Pa基準・A-weighted) |
Sensitivity | -41dB @ 1kHz(9mV/Pa) | -35dBV |
Output Connector | Male XLR 7-pin(金メッキ) | |
High-Pass Filter | – | 125Hz(6dB/oct) |
Voicing Switch |
| - |
Pad Switch | -20dB/-10dB/0dB | -10dB |
Finish | 手磨き #4 グレイン仕上げ | ポリッシュニッケルトリム / ハイグロス・ピノノワール |
Power Supply(Voltage Requirement) | PS-14 (110–240V) | PS-13 (110–240V) |
重量(マイク) | 0.53kg | 0.48kg |
寸法(マイク) | 長 × 径 = 208mm × 52mm | |
重量(ケース込み) | 8.14kg | 5.29kg |
寸法(ケース) | 445 × 447 × 186mm | 425 × 325 × 142mm |
カプセルはBeesNeez CK12という、オーストラリア製の美しいカプセルで、現代の自動化されたCNC機械加工で製造されており、開発者のBenは元々のCK12に関して非常に詳しい方とのことです。最も複雑で(そして高く評価されている)カプセル設計の一つであるCK12は、いくつかの最も神聖視されたヴィンテージマイクロフォンの心臓部となっています。 このカプセルは、低い内部反射と自然な音を実現するためにオープンウィーブのヘッドバスケットを備えた、Vanguard Audio Labsのシャーシプラットフォームにセットされています。 Cinemag®トランスは、ヴィンテージのオーストリア製マイクロフォンに見られる有名な「T14」トランスの特性を模倣していますが、より大きなコアを使用して、優れた低域のレスポンスと、より高品質な合金と精密な巻線を実現しています。
マイク本体にはPADとHPFと思いきやVoicing Selectが搭載されています。こちらに関しては、下の公式動画の35:05から説明があります。解説しているのはVanguard Audio LabsのDerek Bargaehr氏です。
訳は以下の通り。
「V24で行ってかなり有用だったことのひとつが、ヴォイシング・スイッチでした。
このスイッチの背後にあるアイデアは、オリジナルの AKG C12 と Telefunken 251(どちらもAKG製)の違いに基づいています。どちらもAKGが製造していますが、251はTelefunken向けに作られたものでした。
それらの 大きな違いの一つとしてよく言われるのが、「トップエンド(高域)のキャラクター」です。
- C12 はどちらかというと 明るいサウンド。
- 251 は より滑らかなトップエンド。
そこでV24では、マイク本体にVoicing Switchを搭載し、
- 251モード
- より繊細な高域のロールオフ
- C12モード
- 明るい高域
を独立して切り替えられるようにしました。
そして今回、基板上にスペースがあったので、このアイデアを拡張して「3段階スイッチ」を採用しました。スペースがあるなら、もちろん使わない手はないですよね。
- 中央のポジション:C12モード
- より明るい高域
- もう一方:251モード
- 非常に繊細な高域のロールオフ(個人的にはこれが一番お気に入りの高域)
- 内部側:仮称“リボンモード”
- もっと強くてダークなサウンド
(今のところいい名前がないのでそう呼んでいます)」
*1) グリルを上方、コネクターを下方とした状態
Sound Impression of V14
さて、実際の音に参りましょう。
Power Supply PS-14は110V仕様です。ひょっとしたら使えるのでは?と100Vに接続しましたが、見事にノイズの嵐でした。適正環境下にてご利用ください。
肉声にてVoicing Switchを切り替えてののチェックを行いました。12kHzより上辺りでしょうか、C12 Mode
と251 Mode
だと251のほうが少し穏やかになります。
Ribbon Modeだと高域はだいぶ大人しくなりますが相対的にも中域にガッツが加わる印象です。Mode名称の由来にもなっているRibbon Micよりは明るい印象です(製品にも依ると思いますが)。
また、Variable-Voltage Tube Controlもいじってみましたが音のハリが変わってくる印象です。厳密にGainをあわせたわけではありませんので気の所為もあると思います。
Over Valtageだと明るい印象、Less Voltageだと優しい印象ですが、-6dBや-12dBになると少しガサつく印象もあります。
さて、LiveのOpeに持ち込んでVo, Pf, Ds, E.Bass, E.Gtの編成のLiveでPf(bottom)に使用してみました。最初はDsのmono O/Hもいいだろうなーとも考えており、どちらで行こうかと思案していたのですが、しっとりとした曲が多く、Pf+VoのみのPartも多々あるのでPfのBodyをしっかり拾いたい、という思惑です。
Top側からの集音も考えたのですが、Pfの反響板がHalf-openであり弦に近づきすぎるのと意外とマイクスタンドが邪魔になったのでPf下に潜ってもらいました。
前日に半日ほどのリハがあり、最初は「アンサンブルを構成する楽器が多いのでPfはハンマー付近の2本で行こうかな...」と考えていたのすが、先程の通りPfの割合は低くありません。リハ休憩中に急いで設置しました。
Tube Voltageは0dB、すなわちNormal operating point high、Voice SelectはRibbon modeで使用しました。Pfの底部ですから、そもそもそこまで高域は出ていないとの判断です。
Hammer付近を狙っているMicはDPA Vo4099Pです。過去にReviewしたのでご覧いただいた方もいらっしゃるかもしれませんね。
Power Supplyを舞台上に設置する必要がありますが、今回は電源もなんとかなり、無事設置完了です。リハの後半で色々試していきましたが、非常に好印象でRibbon Modeも正解だった印象です。
イントロなどでPfがL/Rに広がる形にしたいときにはVO4099をやや大きめに、SoloやObbligatoなどCenterで芯をはっきりさせたい時にはV14を少し大きめにというStyleで調整が可能でした。
更にその質感が素晴らしいです。今回はVariable-Voltage Tube Controlは事実上、ほぼ使用していない状態なので、VanguardのTube Condenser Micという評価になるのだと思いますが、V13とは色々異なりますからV13ではこの音質は得られないかもしれません。
会場の定在波の関係で108HzあたりをEQでCutしましたがそれ以外は完全にNo Effectで対応できました。2,3dB(場合によってはもっと僅か)だけの変化でPfのサウンドに明確な変化が出ます。非常に優秀なマイクです。
そこまで広い会場ではないので、相対的にDsのDirect soundがそれなりの音量になります(かなり抑えて叩いてくださいました)が、それでも絶妙に音質をコントロールできたのはある意味驚きです。非常に美しいPf soundでした。
Liveは大成功に終わり、観客の方からも「次はいつだ?」と問い合わせが多かったとか。次回も楽しみです。
Multi track dataもあるので後日こっそりMixingしてみようと思います。
Afterwords
今回時間がなく、Variable-Voltage Tube Controlは積極的には試せませんでしたが、Ds RecのRoomでRibbon Modeで使用したり、2本揃えてDs Overhead、またQuireの収録などにも威力を発揮してくれそうですし、何よりVocalの録音には非常に重宝すると思います。
価格が価格なので「よし、気に入った!!買う!!」と即断できる人は少ないかもしれませんが、ぜひとも選択肢に加えていただきたいマイクです。

date:
checker:Takumi Otani
Vanguard Audio Labs,V14
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