Phoenix Audio
Ascent Two EQ
今回見ていくのはDual Mono HA+EQ、Phoenix Audio Ascent Two EQです。
登場した当初はノブの形状から某ブランドのコピーモデルと思っていましたがさてさて実際にはどうでしょう?
早速見ていきましょう。
Product Overview of Ascent Two EQ
Phoenix Audioは、Shaun Levequeが1996年にU.K.で設立され、ヴィンテージ・NEVEのメンテナンス用オペアンプを開発していました。その技術を活かし、1999年に初の製品「DRS2 クラスAディスクリート・マイク・プリアンプ」を発表し、改良を重ねながら現在も販売されています。
サミング・ユニット「Nicerizerシリーズ」の成功により、世界的に注目されるブランドとなりました。設計には、NEVE製品開発にも関わったDavid Reesが参加。2009年に拠点をアメリカに移し、外注を使わず国内で製造を行っています。
Phoenix Audioの製品は、Neve Cloneと誤解されがちですが、独自のサウンドと設計思想を持ち、apiの要素も取り入れた特徴的な音作りがされています。ヴィンテージ機器の知識と最新技術を融合し、高品質なサウンドを手の届く価格で提供することを理念としています。
HAのシリーズの見た目(特にknob)からはNeveのクローン感
が醸し出されていますが、実際にはそうではないようです。
Specと参りましょう。
- ラックスペース
- 1U
- 電源電圧
- 240V/110V(切替スイッチ付き)
- 動作回路
- Class A(DSOP-2)
- 出力仕様
- 周波数特性
- 20Hz ... 20kHz ±0.5dB
- 最大出力レベル
- +26dBu @ 1kHz
- ノイズ
- -90dB @ 20Hz ... 20kHz
- 出力端子
- XLR、TSR 1/4" ジャック(リア)
- マイク入力ステージ
- クラスA、トランスレス、電子バランス
- 入力端子
- マイク/ライン入力
- XLR(リアパネル)Z=10kΩ
- DI入力
- 1/4" TSR ジャック(フロントパネル) Z=10MΩ
- プッシュボタンスイッチ
- EQL
- EQバイパス切り替え
- DI
- XLR in/Front DI端子切替/Gain knobとPADスイッチは無効
- HPF
- 6dB/Oct.@80Hz
- +48V
- ファンタム電源
- PHASE
- 位相反転スイッチ
- PAD
- -15dB(LEDは常時点灯)
- (アースリフト)
- signal groundをchassis groundから切り離します。
- ゲイン範囲(マイク入力)
- -30dB ... -70dB(5dBステップ)
- ゲイン範囲(出力)
- -∞dB ... +10dB
- ゲインメーター
- LEDメーター(緑=0dB、黄=+8dB、PPMメーターの「4」と「6」に対応)
- 周波数特性
- マイク入力ステージ
- -0.4dB @ 40Hz、-0.3dB @ 25kHz
- DI入力ステージ
- -0.3dB @ 40Hz、-0.5dB @ 25kHz
- ヘッドルーム
- +26dB(マイクプリアンプステージ)
- EQ
- タイプ
- Gyrator EQ
- 周波数センター(4バンド)
- Hi: 25kHz(SHEEN)、15kHz、10kHz
- Hi-Mid: 6kHz、3kHz、1.6kHz
- Lo-Mid: 800Hz、400Hz、200Hz
- Lo: 130Hz、80Hz、40Hz
- カット/ブーストレベル
- 各バンド±16dB(21段階のDetent付きポット)
- DI Gain
- 最大30dB
あまり聞き慣れない名称にGyrator EQというのがありますね。Phoenix以外でGyrator EQを謳っていたのはVertigo Sound VSE-2でしょうか。
Gyrator EQとはインダクタ(コイル)を使用せずに疑似的なインダクタンスを生み出す回路を利用したイコライザーの一種でトランジスタやオペアンプを用いてインダクタのような振る舞いを再現し、パッシブEQの特性を持ちながらも小型で扱いやすい設計が可能になります。
EQのSheen
はAMEKのSystem 9098EQやChannel in a BOXの高域にも記載されていました。高域の輝きや艶を指す言葉ですね。EQのFreqが固定なのが少し残念ですが、使い勝手は悪くありませんでした。選択式なのでむしろQuickな設定が可能な印象です。
HAを絞りきっても+30dBの増幅があります。SM58だとちょうどよいくらいでしょうか。PADが-15dBですから+15 ... +70 dBの増幅率を持ちます。Kickなど、増幅が少なくて済むsourceですと、絞り切り+PAD ON(=+15dB増幅)でもADCでClipするかもしれません。
それを見越してかPADのボタンのインジケーターはPADのON/OFFに関わらず点灯しています。
Mic Input Zは10kΩとのことで結構高めな印象です。最近見かけるHAは1 ... 2.5kΩ位が多い印象です。Input Zを変更できるHAもありますが、それでも10kΩは高めの設定値です。
入力段はトランスレスですが、出力段にはカスタムトランスDB694が使用されており、Phoenix Audioの独自開発のフルディスクリートアンプ DSOP-2と結合されています。
Sound Impression of Ascent Two EQ
さて、音に参りましょうか。今回は録音でE. BassのDIとして、と、Vocal RecのHAとして使用してみました。比較のためのチェックではないので印象ベースでの印象となりますが、ご了承ください。
まずBassからですが、DI inputにBassからのケーブルを接続し、DI
ボタンを押せば回路は切り替わります。このときにはGain knobとPAD Switchは無効になります。つまりOutput knobがGainの様な役割になります。
ぱっと聞きの音質はコシがあるしっかりした音です。EQをぱぱっと掛けてみましたがしっかり掛かり、好印象です。質実剛健な太さと明るさを持つ音質という印象です。後段に接続したLimiting AmplifierでCompressionを程よく掛けて音作りは完了です。Ds+Baで簡単に録音して音を確認してもらいましたがなんら問題なく音作りは終了です。
余談ですが、良い製品を試すと、音が良いのであっさり音が決まることが多く、文章にするとあっさりするのが少し悩みどころですね。筆者が気になっている製品を試すことが多いのでどうしてもマニアックでかつ、音が良さそうな(そして実際に良い)ことが多く、「もうこれでいいじゃん!」みたいなことは少なくありません。現場にいるクライアントなどは結構「!!」となっているのですが、筆者の表現の幅の狭さ/能力不足もあり、その状況はなかなか伝わっていないのかもしれません。
閑話休題
sessionはそのまま程よく順調に進み、Vocalの録音です。折角なのでVocalのHAとして使用しました。
HAの質は先ほどと同じくしっかりした印象ですが、Toneにもう少し明るさがほしいなと感じたのでちょっとEQすることにしました。声に少し張りを出すための薄化粧、というイメージでしょうか。
後段のLimiting Amplifierで程よく叩いて音作りは完了です。メンバーに確認してもらいましたが違和感がないそうでそのまま収録に進むことにしました。
今回の素材はバリエーションに富むスタイルで歌、セリフ、シャウトなどありますが、HAで歪むこともなく、sessionは順調に進んで行きます。
Mixingでもすんなり処理進み、くっきりした音像が好印象でした。
Afterwords
派手さはありませんが質実剛健なHAという印象です。
HAやSumming mixerといったアナログドメインの製品を作り続けてくれる頼もしいブランドです。同社が手掛けるCompやLimiterなどあれば是非音を聞いてみたいですね。

date:
checker:Takumi Otani
Phoenix Audio,Ascent Two EQ
ショップページへ