Umbrella Company
Active Mic Cable

前回のレビューからだいぶ時間が空いてしまいました。さて、今回見ていくのはケーブルです。ただのケーブルではなく、XLR female内部になにやらActive回路を仕込んだActive Mic Cableです。

ケーブルというものはPassive(=電源を必要としない)の機材ですが、それがActiveということは能動素子が組み込まれているのでしょう。実際にはファンタム電源で駆動可能になるようです。

早速見ていきましょう。

Product Overview of Active Mic Cable

公式の解説もありますので、今更感もなくはありませんが見ていきましょう。

黄色のマーキングが施されている以外、見た目は完全に普通のXLRケーブルと同じです。万が一マーキングがなくなってしまうと悲劇しか待っていません。

Active Mic Cableと通常のケーブルの最大の違いはNC3FXX-B内に仕込まれたディスクリート回路なわけですが、取説に「解体するな」という旨が書いてあるので大人しく言うことを聞いておきましょう。電材部はmogamiのStar quad cable 2534が採用されています。

さて、回路の詳細は不明ですが、製品のコンセプトを見ていきましょう。

Dynamic Mic(Moving-Coil)もRibbon Micも磁界の中で金属が移動し、磁束が変化するとその変化に伴って電圧が発生する、という電磁誘導の原理を利用したものです。中学校の理科で学習するフレミングの法則とかあのへんです。しかし、モーターなどの機器から推測できるとおり、磁界内に設置された導線に電流が流れるとその導体に対して力が発生します。しかも残念なことにその力の方向とはダイアフラムを振動させる音波振動の動きと常に逆向きです。この現象を電磁制動と言い、すなわち、ダイアフラムの動きに対して常にブレーキがかかっている状態となります。比較的高音圧のソースに対して感じられるDynamic Micの独特のRMS Compression感はこれも一因です。

つまりダイアフラムは動き出した瞬間から止まろう、止まろう、という力が足枷になっている状態で、正確な音波振動をキャプチャーできません。もちろんそれだけが理由ではありませんが、パーカッシブな信号を受けるとダイアフラムは急に動き出します。しかし、加速度が大きいほど電圧の値も大きいので電磁制動の影響が大きくなりパーカッシブな音波とマイクの出力には差が出てきます。

さて、ではどうやれば正確な音波をキャプチャーできる(=電磁制動の影響を小さくできる)でしょうか? 電磁制動は物理法則に基づく現象ですから頑張って捻じ曲げるということは不可能です。方法の一つに流れる電流の値を小さくするということが考えられますが、オームの法則 \begin{eqnarray}E=ZI\end{eqnarray}($E$:電圧、$Z$:交流抵抗、この場合はHAの入力インピーダンス、$I$:電流値)を考えると \begin{eqnarray}I=\frac{E}{Z}\end{eqnarray} ですから$E$を小さくするか$Z$を大きくするしかありません。$E$を小さくするにはなるべく変化率が小さくなるようにゆっくり動かすしかありませんが、楽器はそんなこっちの都合はお構いなしです。となると$Z$を大きくする他ない、という結論に達します。

HAでもInput Zを可変なモデルがいくつか存在します。それではだめなのでしょうか?もしくはかなり高い入力インピーダンスの値、例えば1MΩなどにはできないのでしょうか。可能は可能です。

さて、Gt Ampがノイズを拾いやすいというのはご存知の方が多いと思います。これはGt Ampの入力が非常に高い入力インピーダンスに設定されているためです。このことからもわかる通り、入力インピーダンスが高いHAは信号経路途中のノイズを拾いやすいのです。もちろんシールドなどで保護されてはいますが、原理的にそうなのだ、と捉えてください。信号経路が長くなるとノイズが増えそうという感覚は皆さんお持ちだと思います。

もう一つ、理由があります。シールドを持つケーブルというのは芯線(=信号線)と周りのシールドがコンデンサー構造を形成し、ケーブルが長くなればなるほどそのコンデンサーとしての効果は大きく(静電容量値が大きく)なります。ケーブルのコンデンサー構造はLPF(ローパスフィルター)を形成し、そのCut-off FsはHAの入力インピーダンス、マイクの出力インピーダンスに大きく影響を受けます。皆さんの予想通り、電磁制動を回避すべくHAの入力インピーダンス高くすればするほどCut-off Fsは低い値になってきます。面白そうなのでちょっと計算してみました。

Cut-off Fsを$F_c[\mathrm{Hz}]$とし、$Z\mathrm[\Omega]$ :マイクの接続先の機器の入力インピーダンス、$C\mathrm{[F]}$:ケーブルのキャパシタンス(静電容量)とすると\begin{eqnarray}F_c=\frac{1}{2 \pi Z C}\end{eqnarray}で求まるわけですが、そのまま計算して表にすると

Remarks$1000\mathrm{pF}(1 \mathrm{nF})$$100\mathrm{pF}$$10\mathrm{pF}$$1\mathrm{pF}$$0.1\mathrm{pF}$
$600 \mathrm{\Omega}$ISA430mkII LOW265,2582,652,58226,525,824265,258,2382,652,582,385
$1.2\mathrm{k \Omega}$SSL XR612 LOW132,6291,326,29113,262,912132,629,1191,326,291,192
$1.4\mathrm{k\Omega}$ISA110113,6821,136,82111,368,210113,682,1021,136,821,022
$2.4\mathrm{k\Omega}$ISA430mkII MED66,315663,1466,631,45666,314,560663,145,596
$4.8\mathrm{k\Omega}$ISA430mkII HIGH33,157331,5733,315,72833,157,280331,572,798
$6.8\mathrm{k\Omega}$23,405234,0512,340,51423,405,139234,051,387
$10\mathrm{k\Omega}$SSL XR612 HIGH15,915159,1551,591,54915,915,494159,154,943
$20\mathrm{k\Omega}$7,95879,577795,7757,957,74779,577,472
$56\mathrm{k\Omega}$Active Mic Cable2,84228,421284,2052,842,05328,420,526
$80\mathrm{k\Omega}$1,98919,894198,9441,989,43719,894,368
$1\mathrm{M\Omega}$1591,59215,915159,1551,591,549

です。縦はマイクの接続先の機器の入力インピーダンス、横はケーブルのキャパシタンスです。

自然界の存在する倍音の限界がほぼ100kHzくらいということで、$F_c$が100kHzより高い部分(HPFの影響を全く受けない)を薄い緑、100kHzより低いけれど可聴領域(20-20kHz)には影響がなさそうな部分を黄色、明らかに可聴領域に影響がある部分を橙背景にしてみました。

キャパシタンスの値を1/10倍にするには手っ取り早く言うとケーブルの長さを1/10倍にする他ありません。mogami 2534のキャパシタンス(シールド-芯線間)は110pF/m(= 110 x 10-12 F/m)とのことですから1mであればオーダーとしては100pFの縦の値が相当します。しかしケーブル長が10mになると、そのケーブルのキャパシタンスは1100pFとなり、こうなると1000pFの縦の値になります。実際には使用するケーブルは10m前後でも壁面内通線/Multi cabelが意外と長いみたいな可能性もあり、マイクからHAまでのトータルの長さは50m、なんてこともザラです。

さて、以上を総合すると、

  1. 電磁制動を抑制する意味でマイクの接続先の機器の入力インピーダンスは高いほうが良い。
  2. その場合、マイクの接続先の機器までの長さは短くないとまずい。

ということが見えてきます。

それを実現したのがActive Mic Cableで、ケーブルのInput Zは56kΩに設定されており、これはLine outも充分に受けることができるインピーダンス値です(あくまでロー出しハイ受けが破綻しない、という意味です。アンプ回路の最大入力レベルは0dBuですのでLine出力に接続すると程度問題で歪んだり壊れたりすると思います)。

しかもXLR端子の内部に配置されているためハイインピーダンス区間の距離は極めて短く、百歩譲って0.02m(2cm)くらいはあるとしてもその時の$F_c$の値は1.4MHzを優に超えています。

めでたしめでたし。これで上記の1,2の条件を満たす状態の出来上がりです。

詳細を調べる前にはsE electronics DM2 TNT / DM1 DYNAMITEのような商品かな、と思っていたのですが、だいぶコンセプトが違います。sE electronics DM2 TNT / DM1 DYNAMITEはPrefixed-Gain amplifierまたはGain Boosterとでも表現すべき製品で、増幅段はマイクに近いほうがS/N的に有利という製品で、ハイインピーダンスを選ぶことにより、結果的に電磁制動が抑制できる、という恩恵もありますが、あくまで2次的な効果な印象です。とは言え、100kΩのハイインピーダンスで受けてもLPFが大事にならないのはやはりマイクの近くに配置する、という部分は大きいでしょう。

Sound Impression of Active Mic Cable

うんちく(?)が長かったですね(苦笑)。機材の作動原理を正しく理解することは、機材の性能をきちんと引き出し、長期間の使用を可能にすると思うのでお付き合いいただきましたが、実際の音に参りましょう。

まずは肉声で試してみました。マイクはSM58です。普通の状態からActive Mic Cableで延長してチェックです。

まずPeak Levelが大きくなります。数値にして3-4dB程です。足枷が取れた状態の開放感、音の立ち上がりが少し早いというかクリアな印象です。うまくトリートメントしてくれた感じと言う感じでしょうか。しかし生々しさは失われていない印象です。膜が一枚取れた、というとちょっと違う気もしますが、「生楽器をダイレクトに聞いているときには感じられてけどマイクを通すと失われていたなにか」がマイクを通しても存在している感じです。昔雑誌で「アタックには多くの情報量が含まれており、人間はこのアタックの部分を聞いて楽器の種類などを判断している。」といった旨の記事が掲載されているのを読んだ記憶がありますが、今回このことを思い出しました。

アタック成分がしっかり出てくることにより抜けの印象もよく、少し明るく感じます。

Percussiveかつ程よいSustainを持っている楽器、ということでFloor Tomで試してみました。SENNHEISER MD421をたてて、まずNormal soundを収録します。
ケーブルを延長する形でActive Mic Cableを接続し、再度収録です。

やはりPeakが大きくなります。Sustainも大きくなっている印象です。シングルヒットのせいもあると思いますが、楽器トータルのサステインが長くなった、という印象はさほど受けません。

波形を拡大して見てみましたが、マイクの位置などは変わっていないので立ち上がりの波形の位相は似ています。しかしNormalのほうが少し鈍ったような曲線を描いているのに対し、Active Mic Cableの方はAttackのPeakに目掛けてまっすぐ立ち上がっている印象です。過渡特性(Trangent)の改善が見られます。ブレーキがかかっていないので目的地に早くたどり着けるということなのでしょう。

通常のケーブル(上)とActive Mic Cable(下)通常のケーブル(上)とActive Mic Cable(下)通常のケーブル(上)とActive Mic Cable(下)

誤解を恐れず表現すると過渡特性が改善し、コンデンサーマイクのようなレスポンスが感じられるという印象です。

他のソースですと、CleanやCrunchのギターサウンドにもとても良いと思います。今回は試せませんでしたが、録音の際のRibbon Micにも使用してみようと思います。

さて、別のタイミングで、LiveHouseのOpeに持ち込んでKickに使用してみました。Kickのマイクは会場のAKG D112(mkI)です。マイキングポイントはいつもと同じく、BDの内部のFront Head寄りです。いつもとの違いはD112の回線に+48Vを掛けないといけないということでしょうか。GAINの値は特にいつもと大きく変わらない印象です(Drummerによって多少は変わるので正直なところ正確な値は覚えていません...)。KickのCableがいつもと違っていることに誰も気が付かないまま、リハ、本番と順調に進んでいきます。流石に通常のケーブルとの比較、というのがリアルタイムでは行えませんので記憶に基づく感想となりますがご容赦ください。ちなみに常設のマイクケーブルの線材はCANARE L-4E6Sですのでその部分の差も含まれていることはご了承下さい。

全体のアンサンブルの中での印象、というのが主になりますが、Kickが埋もれづらくなっている印象です。Trangentが良くなっている部分の影響でしょうか。アタック成分が鈍らずにきちんと入ってくるせいなのでしょうか、Kickのアタックのペチ、という部分が目立つということは一切ないのですが、Bassの下にきちんと存在してくる印象です。

ジャンル的にアタックを目立出せたいな、というときでもいつもより、EQのBoost量は少なめな印象です。低域に感しては今回のOpeでは全くBoostの必要性を感じませんでした。


立ち上がりがシャープになりダイナミックレンジが改善するという結果が得られた印象ですが、いままでコンデンサーマイクが当たり前と思われていたソースもDynamic Mic+Active Mic Cableという組み合わせにリプレイスできるかもしれません。
周波数特性ではコンデンサーマイクに優位があっても、その質感が曲に合う合わない、はまた違うかなと思います。
使い慣れた定番機の新たな一面が聴けると思うと非常に楽しみです。

Afterwords

Active Mic Cableの場合、増幅段はHAなので、HAの個性を活かしたい方にはよいでしょう。Active Mic Cableを使用することで、今までEQやコンプで無理やり(?)なんとかしていた部分が解決するかもしれません。

本数を揃えて録音に使用するのもとても楽しみですが、Liveの際のVocal Micにもとても向くと思います。演者の表現するダイナミックレンジがきちんとHAのまで届くのでDynやEQのアプローチも変わってくるかもしれません。

コンデンサーマイクに使用できないのが残念ですが、使い慣れたダイナミックマイクの良さを引き出してくれると思うと楽しみです。

市販標準の長さは5mで1m追加ごとに¥1,000-加算されます。XLRケーブルなので延長すれば良いのですが、1,2m延長接続するのもなんだかなので(ちなみに接続延長しても違和感はありませんでした。)ご希望の方は追加延長するのも良いと思います。僕も7mあたりで揃えていこうかなと思っています。

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