Nittobo Acoustic Engineering (NAE)
SYLVAN

さぁさぁやって来ました日東紡音響エンジニアリングの柱状拡散体 Acoustic Grove System SYLVAN。

SYLVANとは「森の」「樹木の多い」という意味の形容詞ですが,古くから森林の音響特性,位相特性は非常に優れている,ということで研究の対象になっていました。

その森林の音響環境をスタジオやホールなどで再現するべく研究開発されたのが柱状拡散体 Acoustic Grove System シリーズの製品です。SYLVANはその中の一つです。

柱状拡散体の初めのモデルはスタジオへ導入されました。それまでのスタジオというのは吸音を施しスピーカーからの音が反響成分でぼやけないような設計になっているものが多かったのですが,実際には無響室に近い環境というのは日常生活でそうそうあるものではなく,人間はそういう環境に長時間置かれるとストレスを感じます。無意識のうちに反射音を聞き自分が置かれている状況を把握する能力があるからです。

ちょっとオーバーな表現ですが,無響室に置かれている,というのは視覚にたとえると目隠しをされている様な状況です。

KRYNA Azteca AZM-WのReviewにも記載しましたが以前から吸音のみでルームチューニングを行うことに若干の疑問を持っていたので興味津々です。

前置きが長くなりましたが早速見て行きましょう。

Product Overview of SYLVAN

今回日東紡の山下さんが直々にお持ちいただいたのですが,いざ実物を前にすると意外と大きく感じます。前見た時はそうでもなかったのですが...。

実際のサイズは

サイズ
約40W x 20D x 140Hcm
重量
約24kg

となっております。転倒防止ストッパーもついており安心です。

太さの異なる円柱を配置し拡散を行うとのことで,当初AGSシリーズがリリースされた当初,ホームセンターで木材を買ってきて自作した方も居たそうなのですが,AGSシリーズは理論的なSimulationと試聴を何回も繰り返して作ったものなので適当に配置したのではその効果は得られないとのことです。

配置する場所ですが,やはりコーナーは聴くとのこと。また,一次反射が起きる場所も非常に有効とのことでした。

販売は1本からなのですが,Left ModelとRight Modelがあり,左右対称になっているとのことです。ただ,Left/Rightは入れ替えてみて効果があるそうでお客さんからの反響でもLはL,RはRが良かったという方もいれば,LがR,RがLのほうが良かったという方もいらしゃるとのこと。

Left/Rightのモデルがあるのは40W x 20Dのサイズ的に理想の配置をするのがどうしても困難だったからとか,2本セット80cm相当でやっと理想とする効果が得られるようになったとのことでした。ただそのサイズにすると取り回しも困難になりますし高価になります。そういう意味からも1本での販売にし,間隔を調整することにより効果をコントロールできるようにしてあるとのことでした。

拡散材ということでやはり定在波の解消に大きく寄与するとのことですが,拡散材を使用ぜずに定在波をなくするには平行面を排除する必要があるので結構大変です。スタジオやホールの様な専用設計でない限り,通常は部屋は直方体になると思います。

定在波は音場にとって非常に厄介な存在で,特に低音の定在波は波長が長いため部屋の場所で大きく音が異なる,という状況を引き起こします。
また波長が長いせいで小さな凸凹では低音の定在波は解消できないのです。

例えばですが,Control RoomでEngineerが座る場所が定在波の影響で低音過多だとしましょう。出来上がる製品は低音が少なめのものになるでしょう。

これだけで済めばまだましです。Engineerのいる場所は低音過多,Directorのいる場所が低音過少だとしましょう。ちょっと考えて悲劇しか思い浮かびません。おそらく低音の処理に関してお互いに相手の言っていることが全く理解できなくなるでしょう。聞いている音が根本的に違うので当たり前ですが,同じ空間に居てそういう認識を持てる人は少ないかもしれません。

古くはこの定在波に対するアプローチとして有名だったのが吸音です。平行面を減らし吸音材を詰める事により反射から引き起こされる定在波をそもそも発生しないようにする,という手法です。

ただし前述のとおり,人間は長時間そういう環境にいるとストレスを感じます。その影響もあり,最近のスタジオではある程度自然に音が響くように作られる事が少なく無いようです。また,アコースティック楽器のほとんどは「ある程度残響がある空間で鳴らす」事が前提になっています。ピアノやVnが開発進化してきた時代背景を考えると無響室などなかったのが当然です。

SYLNAV初めAGSは自然で癖のない残響を目指している,という印象でしょうか。残響というとホールや体育館などが思い浮かぶかもしれませんがあんな長い残響ではありません。自然な初期反射と偏りの無い非常に短い(2,30mSec以下)残響です。

Sound Impression of SYLVAN

通常「拡散」というとスタジオなどがイメージされるかと思いますが,今回いろいろ試してみました。

Acoustic Gt

少し響き(というより部屋鳴り)がある感じのブースのコーナーにSYLVANを1つおいてみました。

半開放のブースなのと,壁も程よく凸凹しているのでその効果は薄いかなぁ,と思っていましたがそんなことは全くありません。

アコギのアタックが出てきて,その楽器本来の個性がわかりやすくなりました。部屋の音質のバランスがとれた,というイメージでしょうか。

エンジニアの方には「オフマイキングで勝負したくなる空間」という表現がほうが通じるかもしれません。

Acoustic Pf

弊社花室スタジオD stに持ち込んでの試聴です。別段強力な吸音をしてあるわけでは無いので「Pfがある一般家屋にSYLVANを持ち込んだらどうなるか?」という状況に一番近いのでは無いでしょうか

広さは約6畳です。まず通常の状態で,音の確認です。中高域に少しピークを感じますが,いわゆる部屋鳴りというやつですね。

部屋の容積と形状をを考えると逆に「まぁそうなるよね」という感じです。

さて,SYLVANを片側のコーナーにそれぞれ1つずつ,合計2本設置です。Pfの蓋が開く側です。

イヤー,効きますねー。前述のピークが無くなり,おそらくそれによって隠れていたアタックが綺麗に聞こえてきます。

楽器の音が綺麗に聞こえてくるのであまり力が要らなくなる印象です。効果があるのは中域だけではありません。低音部のレスポンスも良くなっています。

気のせいだと嫌なので再度撤去してみましたが,当たり前ですが音は元に戻ります。良い状態を聞いてしまったのでかなりがっかりです。

木目のアイテムなので部屋の景観をあまり損ないません。何なら花瓶の台にしてもよいでしょう。

Acoustic Drums

弊社リハーサルスタジオの空き時間に持ち込んでドラムを叩いてみました。設置した場所は対角線のコーナーです。

一番印象が変わったのはBass Drumです。量感が増しLow-endが伸びました。高価なキットに変わったような印象です。

弊社ミュージックスクールの講師に許可をとって壁面の中央あたりに1つレッスンスタジオにおいてみました。

「コーナーにたまっていた低域が解消し,中高域の解像度が向上した!」と驚きの声を頂きました。


楽器の音が良くなってくれるのはエンジニアにとっては嬉しいですね。録音時に楽器の音が良いと演奏する側もノッてくれますし,何よりMixが楽です。またドラムはAmbient Micを立てることが多いのですが,それはアンビが綺麗に響いている,事が前提ですから全体的な音質向上が期待できます。

基本的に共通の性質としては楽器本来のアタックが出てきてモニタリングしやすくなる,という部分があるといって良いと思います。

せっかくなのでSYLVANを弊社リハスタに設置してあるのですが,お客さんから「アノ木のアツ(=SYLVAN)が設置されてからすごく音が良くなって,やりやすくなった!!」との声を頂きました。

Afterwords

SYLVANを色々試してのトータルな印象ですが「部屋の音場状態を整えてくれる」と言って良いかもしれません。今回スタジオに持ち込んで感じたのが,「結構癖あったんだなぁ」ということです。

SYLVANは取り敢えずコーナーにおいてみる,ところから初めて頂くのが良いかもしれません。

すでにお持ちの方も弊社デモ機で「追加したらどうなるか」を試していただくことが可能です。お気軽にお問い合わせください。

山下さんともいろいろお話させていただいたのですが,「周波数特性」というのはあくまで音の特性のいち側面にすぎないと,たとえるならば後ろ姿をみて「イケメン」だと判断するようなものだと思います。音には位相特性や残響特性など様々な側面が存在します。それらを完全に均一にするのは難しいのかもしれませんが,AGSシリーズを始めとする製品を使用することによりストレスのないリスニング/演奏環境が入手可能です。

音は最終的には物理学でしょうから,理論がしっかりしている製品は信用できます(理論だけで頭でっかちなのはダメでしょうけど)。

気になる方はぜひとも相談してください。複数本ご用意しての出張デモも承ります。

オーディオシステムの響き方が「なんかなぁ」という方,ご自宅で楽器,特にアコースティック楽器の鳴りがつまらないと言う方,悪いのはあなたの部屋の響きのせいかも知れません。

Nittobo Acoustic Engineering (NAE),SYLVAN 画像

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