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KORG
MR-2000S

今回はKORGのMRシリーズの最新機種MR-2000Sのレビューです。1Bit DSD(=PDM)録音をこの価格で可能にした画期的なMRシリーズの業務モデルです。

Product Overview of MR-2000S

早速ですがMR-1,MR-1000との違いを見ていきましょう。XLR標準搭載になりラックマウント可能でメーターも視認性がアップしています。またUSB2.0のポートを搭載していますのでPCとの連携も簡単です。バックアップもラクチンですね。

さすがシリーズ最上位機種!ツマミのぐらつきなどもなく、操作に安心感があります。80GBのHDDを標準搭載していますのでそちらにどんどん溜め込んでいけるのが嬉しいですね。

僕は良くMixMasterをProToolsの内部バウンス,TASCAM DV-RA1000にバウンスしています。
時間の関係や、「とりあえず」のラフを作るのに時間のかかるDVD+Rのinitializeをしてられないというときもありますから。
また同じHDDに再生しながら書き込むと良くない、という話も聞きますし、どうせなら別メディアで簡単にバックアップを取れるマスターレコーダーはずっと欲しいと思っていました。
昔はDATを使用していましたが、24Bitが主流になるにつれ、24Bitのメディアで記録可能なメディアが欲しくなってきていました。
DATと現状の間にはいろいろあるのですが、最近はHDDがスタンダードですね。
さてMR-2000Sに話を戻しましょう。

Spec詳細はこちら(公式ページ)をご参照していただくとして、特筆すべき点だけをPick upしておきましょう。

通常のPCMに加えDSDが使用できます。周波数特性も100kHzまで!!自然界に存在する倍音がせいぜい100kHzまでと言われていますから自然界に存在する音を(原理上は)すべて収録可能ですね。

昔展覧会で(InterBEEだったかな)DSDのマルチトラックレコーダーが発表され、音を聞きましたが、実際に演奏家がそこにいるかのようなリアリティだったのを今でも覚えています。

What is DSD?

さてではMRシリーズの最大の売りであるDSDフォーマットへの対応ですが、DSDとはナンなのかを簡単に説明しておきましょう。
DSDはDirect Stream Digitalという正式名称で、PDM(Pulse Density Modulation)のことです。日本語ではパルス密度変調といいます。
現在録音フォーマットでもっともポピュラーなのはPCM(Pulse Code Modulation)(パルス符号変調)方式です。CDDAやDVD等にも使用されており、いわゆる「サンプリング」という奴です。

オーディオに興味がある人なら24Bit/96kHz,24Bit/192kHz,16Bit/44.1kHz等という単語を聞いたことがありと思いますし、録音をなさっている方にはセッションファイルを立ち上げるときに必ず選択しないといけないものですね。
PCM方式は滑らかな交流信号であるアナログ信号を細かく分割し、標本化してdataにします。サンプリングFsをいくらあげても原理的にdataの取りこぼしがあります。もちろんサンプリングFsが高くなればその取りこぼしの量は減ります。

DSDの場合、とりこぼしはありません。厳密にアナログと比較するとわずかなずれはあるのですが、トータルでは相殺されます。
PCM方式でもAD時はまず1Bit PDMで処理され、その後PCMに変換しています。DAも同様です。DSDは「録音時も再生時も高速標本化1bit量子化するならば、わざわざPCM信号に変換せずにそのまま伝送すれば特性が良くなる」ということに着目して開発されたフォーマットです。
実際にはSuper Audio CDのフォーマット(1Bit2.8224MHz)として採用され、Jazzやクラシック、アナログ時代の名盤がSACDで再発されたりしています。
2.8224MHzという数字はCDDAのサンプリングFsである44.1kHzの64倍(DSD64と書きます)となっており、現在主要なフォーマットである44.1kHz, 48kHz, 88.2kHz, 96kHz, 176.4kHz, 192kHz, 352.8kHz, 384kHzに対して非常に換算しやすい数字になっています。

例えば作品を最終的にCDにするとしましょう。どこかで44.1kHzにしないといけないのですが、デジタルドメインでダウンコンバートするとしたときに、96kHz→44.1kHzよりは88.2kHz→44.1kHzの方が演算が単純です。÷2なわけですから。
この辺のダウンコンバートのことも考えられて2.8224MHzという数字が出てきたのでしょう。MRシリーズはこの倍の5.6448MHzも処理可能です。CDを基準にするとDSD128ということになります。

以前、48kHzと44.1kHzのマスターを効き比べたことがありますが、やはり違います。みずみずしさとと言うかフレッシュな感じが失われ、聞き慣れた(CDの)感じになります。

CDからDVD,SACDとメディアが進化していますが、これから先もうメディアの進化はない、とは言い切れません。現時点でもっとも良いアーカイブはDSDということになります。

「PCMだって384kHzや768kHzでサンプリングできる時代が来るだろう?」という意見もありそうですが、DSDは周波数領域(=Frequency Domain)のみならず時間領域(=Time Domain)においてもフラットに近い再現性を持ちます。すなわち位相特性が非常に優れています。周波数特性が広いということよりも、こちらの方が恩恵は大きいように感じます。インパルスレスポンスを最もオリジナルに近い状態で再現できるのがDSDです。(インパルス:インパルス波は算術上振幅が無限大で波長が限りなくゼロに近づき、振幅×波長=1という音波です。)PCMではどうしても滲みが出ます。また、多くの倍音成分を含む矩形波を原音に最も近い状態で再現できるのもDSDです。これは周波数領域の再現性の優位さを表していますね。

About operation

使用方法はいたってシンプルです。MDやカセットのようにメディアを入れてすぐRecとは行きませんが、2Trレコーダーですから似たような感覚で使用できます。
電源投入後、画面が立ち上がって[Menu]から録音フォーマットを選択し、入力レベル(-20dBFs/-18dBFs/-16dBFs/-14dBFs/-12dBFs/)をセレクト、今回は使い慣れている-14dBFsにしました。
便利だなーと感じたのが録音を停止し、新たに録音しようとすると、勝手に別プロジェクトになるところです。
「何回か録音したけど3回目のテイクだけほしいなぁ」というときに便利でしょう。こういったことからも設計思想が「MasterRecorder」であることが伺い知れます。メーターの視認性も良く、便利です。また録音中に本体操作をLOCKできるので誤作動も防げます。

PCへの取り込みもUSBで行えますが、簡単な編集はAudioGateで行います。初回起動時はAudioGateはMRシリーズを接続しないと正常に起動できません。

Sound Impression of MR-2000S

さてさて試聴してみましょう。

Direct Recording

今回は弦楽四重奏の録音の機会がありましたのでそこに持ち込んでチェックしてみました。
録音フォーマットはもちろんDFF(=DSD File Format)です。パラでAlesis DADT HD24 XRを回しました。写真がないのでちょっと状況を説明しづらいのですが、ちょっとしたコンサートがありまして、それを収録して欲しいとご依頼いただきまして、せっかくなら、とMR-2000Sを持ち込んだ次第です。

マイクはAKG C414B-XLIIを使用し、離れたところにステレオで立てました。
HAはFocusrite ISA430 mkIIです。MR-2000SにはFocusrite ISA430 mkIIのHA outputから、AlesisにはMain Outputから出力しました。EQやDynはすべてバイパスしていますので両者の音質にはほとんど差がないはずです。

収録中にもHeadphoneを差し替えて試聴していたのですが、そのときの印象は100kHzまで高域が延びているからといって高域がきらびやかになるとかそういうものではありませんでした。
むしろ中域が少し豊かになり、音像が自然に広がる印象です。非常に好印象ですね。
しかしheadphone ampも異なりますし、そういった要因も否定できないのでやはり限りなく同じ環境で試聴してみました。

AudioGate

という訳でAudioGateの出番です。
AudioGateはDSD Formatを含む、MRシリーズで取り扱えるファイルの分割や結合、変換が行えるアプリケーションです。
AudioGateをインストールしたPCとUSBで接続し、MR-2000SをUSBモードにセットします。正常にセットアップが完了するとOS側から外部HDDとして認識されます。
AudioGateを立ち上げファイルを読み込み、[EXPORT]で44.1kHz,16Bit(=CD Format)に変換して出力、MR-2000Sの[AUDIO]というディレクトリに保存します。これで準備完了!あとは試聴するのみです。

Headphone アンプから何から完全に同じ環境での試聴です。44.1kHz/16Bitの聞き慣れた感じの音に比べてDSDは非常に自然でアンビエントなども綺麗に聞こえます、というか感じます。収録した空間のサイズが分かる、といえばそのニュアンスが感じ取ってもらえるでしょうか。その場にいる感じというか極めて贅沢な感じです。
音質はやはり中域が豊かに感じます。44.1kHz/16Bitの方を基準にするとそういう表現になります。豊かといっても持ち上がっていると言う印象ではありません。DSDを基準にするとCD Formatは高域にギスギスしたモノを感じます。大げさに言うとMP3のような感じというか、長時間聴いていると耳が疲れる感じです。

Mix Master

ここではいわゆるMultiTrackRecordingのMaster RecorderとしてのMR-2000Sです。

前述のとおり弊社にはTASCAM DV-RA1000がありますが、Initalizeの観点からもいまいち使いづらい部分があります。現行はHD搭載していますから問題ないのでしょう。

本音を言うとすべてDV-RA1000に入れたいのですが、HDではないのでBackUpの問題や、Initializeの問題があり、なかなか頭が痛い問題でした。また全部が全部DSDがよいかというとそんなことがない気もします。そういった意味で、HDだと「違うなー」と思った時点でDeleteできますからdata整理もラクチンです。

あと、これは完全に僕の印象がベースなので話半分くらいに聴いてください(苦笑)。
今回AudioGateで変換した44.1kHz/16Bitの音は最初から44.1kHz/16Bitで収録したマスターよりも音が良い様に感じました。もちろんADコンバーターなども異なりますから「DSDから変換したから」とはいえないのですが、まったく関係ないとはいえないのではないかと感じます。この辺もこれから先使い込んで検証していきたいと思います。

Please improve

欲を言えばAES/EBUの入出力があればなぁ、と言うところでしょうか。僕はやはりAES/EBUを標準搭載していて欲しいです。スタジオレベルのデジタル機器には必須といっても良いデジタル端子ではないでしょうか

Afterwords

モノが音だけに聴かないと分からないのがもどかしい部分もありますが、少しはMR-2000Sの魅力が伝わったでしょうか。

完全にPC内部で音源から何から走らせている人には諸手をあげてオススメできる商品ではないのかもしれませんが、広い意味でのアコースティックモノ、いわゆるマイク収録を伴う場合には、もしくはアナログの機材をよく使用する人には非常にお勧めできるMasterRecorderだと思います。

ちなみに同社のMR-1を知り合いのミュージシャン(Saxophonist/Comporser)が買ってくれたのですが、「いーねー、あれ。自然な感じがやばいよ!」と絶賛していました。

Addational Topix

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Product Review